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朝の山には、
まだ夜の静けさが残っていました。
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木々の葉は動かず、
森は、深い呼吸をしているように見えます。
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遠くから差し込む光が、
枝の隙間を抜けて、
森の奥を少しずつ明るくしていました。
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その光を受けて、
水面がかすかに揺れています。
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川がある。
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けれど、
その音は大きくありません。
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岩のあいだをすり抜けながら、
水は静かに流れています。
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どこから来たのでしょう。
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山の奥からでしょうか。
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それとも、
もっと遠い場所から、
長い時間をかけて
ここまで辿り着いたのでしょうか。
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そんなことを考えながら、
川のそばを歩いていきます。
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森の中には、
いくつもの小さな流れがありました。
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苔のついた岩の隙間から、
細い水が湧いています。
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木の根元を伝い、
葉の影を抜け、
小さな水たまりに集まっていく。
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そこからまた、
ひとつの流れになっていきます。
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水は、
急いでいるようには見えません。
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けれど、
止まっているわけでもありません。
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ただ、
自分の道を知っているように、
静かに進んでいきます。
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大きな岩があれば、
その横を通る。
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道が細くなれば、
細くなる。
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開けた場所へ出れば、
ゆっくりと広がる。
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水は、
無理に道を変えようとはしません。
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けれど、
どんな場所でも流れていきます。
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少し歩くと、
森が開けました。
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そこには、
小さな泉があります。
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水面は驚くほど透明で、
底に沈んだ石まで見えています。
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風が吹くと、
水面に小さな波紋が生まれました。
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ひとつ。
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またひとつ。
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波紋は静かに広がり、
やがて見えなくなります。
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そのあとには、
何事もなかったような水面が残ります。
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けれど、
確かに何かが動いた。
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そんな気がしました。
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泉のそばには、
一本の木が立っています。
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長い時間、
ここにいるのでしょう。
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その木の根元には、
緑があり、
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その緑のそばには、
小さな花が咲いています。
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泉から流れた水が、
森を潤しているのでしょう。
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水は、
自分が何かをしているとは言いません。
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木も、
「私が森をつくっています」
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とは言いません。
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ただそこにあって、
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水は流れ、
木は育ち、
光は差し込み、
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森は少しずつ豊かになっていきます。
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さらに歩いていくと、
泉から流れた水は、
少しずつ大きな流れになっていました。
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さっきまで小さかった水が、
いくつもの流れと出会い、
ひとつになっています。
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森を出るころには、
川幅も少し広くなっていました。
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振り返ると、
先ほどまで歩いていた森が見えます。
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あの静かな泉も、
もう見えません。
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けれど、
そこから始まった水は、
今も流れています。
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森を出て、
もっと遠くへ。
知らない場所へ。
まだ見たことのない景色へ。
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人も、
もしかしたら同じなのかもしれません。
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自分の中にあるものが、
いつ、どこで誰かに届くのか。
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それは、
自分では分からないことがあります。
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一生懸命に届けようとしなくても、
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ふとした言葉が誰かの心に残ったり、
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何気なくしたことが、
誰かの背中をそっと押したり、
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自分では気づいていなかったものが、
誰かにとって大切なものになっていたりする。
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そんなことがあるのかもしれません。
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だから、
無理に大きな流れにならなくてもいい。
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小さな泉のままでもいい。
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静かに満ちていれば、
いつか自然に、
水は流れ始めます。
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「なかやま エミリ」という名前から、
私はそんな風景を思いました。
山の奥にある、
静かな泉。
そこには、
まだ誰にも知られていない水があります。
けれど、その水は少しずつ満ちて、
森を潤し、
小さな流れになり、
やがて遠くへ向かっていく。
静かだけれど、
止まってはいない。
穏やかだけれど、
ちゃんと進んでいる。
そんな風景です。
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もし今、
あなたの中にも、
まだ誰にも見せていないものがあるのなら。
まだ言葉になっていない想い。
まだ形になっていない願い。
まだ自分でも気づいていない何か。
急いで答えを出さなくても、
いいのかもしれません。
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泉の水が、
流れ始めるまで待つように。
自分の中にあるものを、
そっと大切にしてみる。
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満ちていけば、
きっといつか、
自然に流れ出す瞬間が来るから。
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そして、その流れは、
あなたが思っているよりも遠くへ、
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静かに、
静かに、
続いていくのかもしれません。
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あなたには、
この風景がどんな景色に見えますか?